うつから立ち直り、恋人ができた

執筆者 | 10月 5, 2016

できる事といえば・・・

Fさんは30代半ばの女性で、数年前、医師からうつ病と診断されて以来、
向精神薬と睡眠導入剤が欠かせない日々が続いていた。
そして仕事も休みがちとなり、最終的には辞めざるを得なくなってしまったとのこと。
何をしても疲れる。食べることくらいしか興味が湧かなくなった彼女は、実年齢より随分老けて見えたのだった。
初診後、施療の響きも心地良さもあまり感じてなかったようだし、陰鬱な表情だった。少しでも励まして差し上げたいと、思い付く限り励ましの言葉をお掛けした。彼女は「少し(からだが)軽くなった気もするが、分からない‥」と、随分頼りない言葉を残して帰られたのだった。

好転の予感

そんな彼女から、一週間程経って「定期的に受けたいのですが」と連絡が入った。
その理由はというと、先日の初診後、仕事についての不安を吐露した彼女に、“この世に産まれて来ているんですから、必要なら必ずFさんに合った仕事に出逢える筈ですよ”と励ましの言葉を伝えたのだが、まさにそれから間もなく人から仕事を紹介され、それが割りと自分に向いていると感じたようだ。このまま施療を続ければまた良い事が起こるのではないかと思ったから・・・、ということらしかった。
「妙な期待をされてしまったかな・・・!」と戸惑った僕だが、あれだけ陰鬱な様子だった彼女が、今では明るく未来を信じてみようとしている事が嬉しくもあり、定期的な施療の予約をお受けすることにしたのだった。
その後の経過はトントン拍子だった! 初診後3、4回目には、表情といい全体の印象といい・・彼女がこんなに綺麗な方だったのか!と我が目を疑った程だった。
そしてある日、彼女が向精神薬を全て止めると言ったのだった。

明るい未来を信じた彼女

以前に止める試みをされて、不安感が強くなり、逆に前より服用量が増えてしまった事を聞いていたので、「薬はいつでも飲める手元に置いておけば心配ないですね」と伝えていたのだったが、すでに薬は処分し、医師に相談すると不安がるので、病院にも行かない事にしたというのだった。
正直な所、医師と同じく僕も少し不安だった。以前のような体験をして欲しくないし、何より良き結果を生まなかった時には、その挫折感が彼女の鬱症状をより深めてしまう要因にならないだろうかと心配したからだった。
しかし、素晴らしい事に、その不安は、そのすぐ後に打ち消される事となる。

彼女のお母様から「娘が自分であんな決意をするとは思えなかったので、タオの方が勧めて下さったとばかり思っていました。」
「いえ、彼女自身が決意されたんですよ」と僕。
「大丈夫でしょうか?」
「彼女自身が大丈夫だと思えるなら大丈夫だと思います。僕も出来るだけの事はしますし、お母様も励ましてサポートしてあげて下さいね。」
そこまで話されてお母様は「親の私達が厳しすぎたのかもしれません。あの子のする事をもっと信じてあげればよかったのかも‥」と涙を流された。
「お気持ちがよく分かる気がします」と言いつつ、僕の目にも少し涙が滲んでいた。

その後、5ヵ月位施療を続けたのち、彼女は勤め先の男性と恋仲となり、
彼の実家がある町へと移って行かれた。初めて産まれ育った以外の土地に暮らす事がとても楽しみだと笑っておられた事がとても印象的だった。

結局タオに癒され励まされ育てられたのは、またしても僕の方だったかもと思う。今でも、他の患者さんに彼女の話をして励ます事があります。

野本 自由