うつ病・・・薬を断ったNさん

執筆者 | 10月 9, 2016

薬物療法が始まって

Nさんは、会社帰りに来院されるのでいつも背広を着ている。
初めて来院された時、ビシッとした、その背広姿がそぐわない気がした。
作務衣がとても似合いそうな方という印象だった。

そんなNさんは大学を卒業後、20年以上に渡って、一日8時間以上座りっ放しは当り前、多い時は10数時間以上もパソコン業務に従事してきた。
バブル時代の頃は、終電での帰宅も珍しくなかった。
バブル崩壊後、少しは楽になるかと思った。が、しかし、世の中は長期に渡って不景気が続き、会社は人件費節約で正社員を減らしてパート社員の採用を増やす。
結局、仕事量も大して変わらず、上司の横暴な振る舞いにも耐えてきたのだが、過労とストレスはピークを越え、とうとうNさんの心身は折れてしまった。

そして藁にもすがる思いで、医者のもとに駆け込んだ。
「、、うつ病ですね、、」と医師は淡々と診断を下したそうだ。
、、、薬物療法しかない、、、全て薬が解決してくれる、、、、。
Nさんは医師の処方された薬を信じ、飲み始めた、、、選択肢は他になかった、、。

しかし、症状は楽になるどころか、副作用の辛い症状がNさんを待っていた。
その症状を抑えるために、医師はさらに新しい薬を処方し、Nさんは飲み続けた。
数年後、気がつくと薬の種類はもうすぐ片手いっぱいになりそうだった。

ある日、脳の中を毛虫が這っているような感覚に襲われた。
そして、Nさんは、ぼんやりとした意識の中で思った。
このまま薬を続けていたらキケンだ、、、麻薬中毒者のようになってしまう、、、
もしかしたら、、、廃人になってしまうかもしれない、、、。

Nさんは暗闇の底で一筋の光を求めるかのように薬物療法以外で自分を根本から治してくれるものを必死に探した。
そしてタオ療法に出会ったのだった。

断薬が始まる

受療は週2回のペースで開始。体調が芳しくない中で勤務帰りに通うのは辛かった。

しかし、ある日。
「、、、いや、不思議です。」
「、、、何がでしょうか?」
「、、、片手いっぱいの薬量から自分なりに減薬の努力をしてきましたが、タオ療法を受ける直前の投薬量までが限界で、それ以上減らすことは、どうしても出来なかったんです。
、、それが、初めて施療していただいた翌日、、、今日は何だか薬を飲まなくてもいいかな、、、という思いが、おぼろげに浮かんできたんです、、それで薬を一日断ってみました、、、」
「、、はい、、、」
「、、、その次の日も、頭はぼんやりしていましたが、辛い離脱症状は無かったので服薬しませんでした、、、そしてまた次の日も、、、と断薬の日を延ばす内に、タオ療法に通いながら服薬しない日が、、なんと連続して2週間以上も経過しているんですよ、、!」

Nさんの話しを聞いてる私が耳を疑ってしまった。
薬物療法を5、6年続けている方が、タオ療法の施療を受けた直後から、数種類の抗うつ薬や抗不安薬などの向精神薬を2週間断っている、と言ってるのだ。私は初診時に「薬は、少しづつ、止められたらいいですね、、」と言った覚えはあるが、、直ちに止めましょう、、などと一言も言っていない。

過去にも軽いうつの人が一、二ヶ月の受療で断薬に至ったケースはあったが、Nさんのように重症に近いうつ病の方が、数回の施療で断薬が成功したのは初めてだった。
いや、成功というにはまだ早いと、咄嗟に自分を戒めた。
が、この時、私は改めてタオ療法の不思議さ、と、ありがたさが身に染みたのだった。

過去の苦い体験

ただ、言っておかなければならないことがある。
私が担当させていただいた全ての人が、断薬に至った訳ではない。

苦い体験がある。
過去にある重症のうつ病の女性がいた。その方はいつもタクシーで来院された。
何故なら、付き添いの方の肩を借りないと一人では歩けないほどだったからだ、、、。
全身の筋肉が痩せこけていた。
問診すると、ロレツが回らず彼女の言葉を理解するには何度も聞き返さなければならなかった。私は明らかに薬害だと思い、彼女にそれを伝えた。
すると、半分納得してはいるが、今さらそんなことを言われても、、、と、いった表情を浮かべた。
彼女は、薬から逃げ出したいが逃げられない、
だから、せめて、ひと時の安楽を下さい、、そんな顔をされて5、6回来院されたが、その後、パッタリ来なくなった。

そして、数ヶ月後、メールがあった。
、、、精神病院に入院しました、、、と書いてあった。
なんとも、やりきれなかった。
彼女にもっと早くタオ療法に出会って欲しかった。
そして薬物で心の傷が癒されることは100%無い、と言いたかった。

続いている断薬

Nさんが来院し始めて一ヶ月ほど経ったある日。
「その後も、薬には全く手を出してないんですが、、、一つ困ったことがあるんです、、、」
「はい、、どんなことでしょうか?」
「はい、、実は、こちらへ伺う前までは、朝起きて辛い時は、会社を休んでたんです、、、(会社も自社から“過労死”なんて出たら困りますからね、、、認める訳です。)
それがですね、最近は朝起きて体がしんどいのに何故か会社に行けちゃうんですよ、、、(笑)」
「はい、、、心が少しづつ、元気を取り戻してこられからでしょう、、でも、できたら会社休んで身体を休めていただきたいですね(笑)。」

初めての受療から数ヶ月経った現在もNさんは薬に手を出していない。
医者にも行っていない。
年間三万人を超える自殺者の主な原因がうつ病とされる中、
「、、、自殺は思い止まりました、、、」と言われるNさんに、私自身救われる思いがした。
そして「今年の私自身の一大ニュースは、間違いなく抗うつ剤を止められたことです(笑)」と年末に言われ共に喜んだ。

今、私は、Nさんに明るい未来が必ず待っていると信じている。
これまでの辛い体験をプラスに転換し、輝かしい人生を送られますように、、、合掌。

長谷川 友信 (中野・東京)