くり返し起こる痛みと不眠

執筆者 | 10月 9, 2016

K.Tさんは、私の別の患者さんである心理カウンセラーをしておられる方からの紹介で来られました。
症状は時折訪れるひざ、足首、背部痛と、頑固な腰部痛、それから不眠、というものでした。聞いてみると彼女はコンゴの音楽を愛し、とても練習熱心な上、その社会では珍しい白人のダンサーということで、仲間たちからは一目置かれているようでした。

治療をしてみると体はなるほど柔軟で、鍛えられているのですが、腰部のこりは相当で響きも強くて体中に行きわたっていました。
その日の施療後は、症状も殆ど消え、場所によっては完全に消失したところもありました。

繰り返す、痛みと不眠のパターン

いわゆる“ストリートダンサー”たちの間では、毎週のように「バトル」と称して、ちょっとした競技会のようなものが、あちらこちらで行われるそうです。

ある夜、彼女はバトルに臨みました。いざ見せ場というところで、右ひざに不安を感じ一瞬躊躇したそうです。すると、パフォーマンスには差し支えない程度でしたが、痛みが走り動きが不完全になってしまう、ということがあったそうです。

「けれども、次の日起きてみるとなんでもないの。」と彼女。
「他にも同じようなことはあったかい?」と私
「その後、ローカル・バンドの小さなツアーのためのオーディションがあったの。やっぱりその時も同じで不眠もぶり返してきたわ。」

2度目の治療のとき、「どうもナーバスになったり怒りを感じたりすると、痛みがぶり返すみたい。そのことに落胆してさらに怒ると、怒りが持続して寝られなくなる、そんなパターンを繰り返しているようだわ。」と彼女。

それ以降も定期的に治療を受けていましたが、このパターンはどこかに存在していました。そして時にはかなり長い間消えていても、あるときまた現れるということが続いたのです。

変化していった彼女

こうなると、治療も単に肉体にとどまらず、心のさらに深みにまで及ぶようになっていきました。
彼女は、タバコとマリファナをやめ、瞑想とエクソサイズを始めました。
また、痛みを受け入れてトラウマに向き合う、という姿勢も日常生活の一部になっていきました。

この期間の彼女は感嘆すべき変わりようでした。そのせいか、付き合う人々、出会う人々が変わっていき、また両親をはじめ関わる人々の痛みも理解できるようになりました。もちろん、全てがうなぎのぼりに順調であったわけではありません。この期間中にもパターンは繰り返しました。

しかし頑固だった腰部痛は、“痛み”というよりも“弱み”という感じになり、ついには、特にダンス中の場合は殆ど完全にコントロールできるようになりました。

不眠はまだ週一ペースで現れていましたが、朝起きても疲れている、ということはなくなったようでした。
治療を始めてからほぼ三ヶ月。面白いことにそれまでは夢中だった「バトル」から、オリジナリティを自由に織り込んだ即興パフォーマンスへと興味が移行していったそうです。そのことが、地下鉄の駅で踊っているときに声をかけられ、ついにモントリオール・ジャズ・フェスティバルで、無料参加の地元バンドとのジョイントですが、ステージにあがるという快挙(?)にも繋がりました。

現在の彼女は、大体毎月、心と体の調整に訪れています。付け加えておきますと、治療のたびにお布施を、特に地震の被災地への寄付をしてくださっています。

豊田雄山 (モントリオール・カナダ)