慢性的な不眠で来院されたTさんの話

執筆者 | 10月 9, 2016

はっきりしない不具合感

不眠が慢性化して辛いと来院されたTさん。
「特に目立ったストレスは無いが、もしあるとしても、漠然としていて明白ではないです」とのこと。

ちょっと気になる表現ではあった。

その話し振りや表情などを観ていて、勝手ながら僕は「満足感、充足感のなさを感じていませんか?」と尋ねました。すると「まさにその感じです!」という返答。
何故そのように尋ねたのかといえば、今にして思えば、僕自身が体験のある感覚だから、胸の内で共感出来たからなのかもしれない。
何とも言えない欲求不満の感覚は、誰もが体験したことのある、眠りを阻害する心理状況だろう。

こちらが尋ねて引き出した要因だと言っても、Tさん自身が一番それに気付いていた筈だ。ただ、その気持ちをどう扱ったらよいのか、どうすれば充足感を得られて、意義深く生きることが出来るのか、、。それをクリアにし、行動を起こせずにおられるのだろうなと感じたのだった。

この心境は、きっと全ての人の不定愁訴、痛みや違和感の最大の原因となっているものではないだろうか。

Tさんは、具体的には身体の不具合を自覚されてはいない様子だった。
ただ、実際にはというと、表面的には力が抜けているように見えても、奥は固くこわばっていた。
首も固くて回らない。でも、軽い圧を受けただけですぐ心地よくなり、施療中に何度もイビキをかいて眠ってしまう程にリラックスされるのだった。

こんな様子だから、不眠といってもさほどのものではないのでは?と
思ってしまう。しかし、Tさんの睡眠は、最長で4時間、そして、週に2夜はほとんど徹夜のままで出勤しているという。

下腹部への施療

そんなTさんへの施療の中で一番時間をかけたのは、下腹部の施療だった。
張りがあり、ごくごく軽い圧でも痛みがあった。
一見、内向的に見え、言葉少ないTさん。そんなTさんの方から言葉が出て、話が弾むようになったのは、この下腹部の施療を始めた時からだった。
そして、痛みの中に心地よさが存在することを体感し、それと同時に体内に熱が発生する感覚も覚えたそうだ。

その時の体験は、彼曰く「古い記憶が呼び起こされた感じ」だったという。

そんな下腹部にある小腸は「第二の脳」とも呼ばれる。
ある研究で、脳の指令で働くはずの消化系等の内蔵が、脳死状態でも働く事がわかったらしく、どうやらその状態での指令は小腸が行っているということらしい。
不思議に、外見だけ見ると、脳と小腸の形は確かに似ている。

また、東洋医学的にみても、「腸」は身体の形成、成長の段階で、かなり重要な働きを持っている。
経絡の小腸経は心経との関わりが深く、心と表裏一体の関係性にあるので、小腸は循環器(血液関連)の臓器でもあるのだ。
そして大腸が肺と表裏一体の関係にあって、なおかつ、感情などの表現の分野にも深く関わっているところをみると、「腸」は古い記憶を何らかの形でメモリーしていることは考えられる。

その後、実際に彼の身体には良い変化が起こり始めた。
本人はあまり気にかけていなかったそうだが、食後によく感じていた腹痛が減り、その代わりに、というのか、食後に眠気を覚えるようになったという。
普通なら当然のことのように思うけれど、以前のTさんはそうではなかったそうだ。

また、施療を受け身体が温まる感覚があってから、ご自身の体内の冷えに気付き、冷たい飲み物、甘い物(白砂糖を多く含むもの)、コーヒーを減らしていきたいと、自ら思われたようだった。

いつも思うことだけれど、こうして患者さん本人の内から、明るい反応、行動が起こり始めると、もう、自分の出来る事と言ったら、サポーターというのか、もうただただ、応援団員?として励まし続けるしか出来る事が
無くなってくるのだった。そう、そしてそれが施療者としても一番嬉しいことなのだ!

現在もTさんへの治療は続いている。

野本自由 (三条・京都)