解かれた心の“鎧”

執筆者 | 10月 10, 2016

感情の全くない反応

ローズマリーはシャイでまじめな人です。彼女から知り合いのGさんの紹介で連絡を入れてきました。それは、長い休暇が取れるので、タオ指圧の治療を1日おきに1週間受けたい、というものでした。

これは珍しいアプローチだな、と思った私は、
「まあ、そう焦らずにとりあえず一回施療しましょう」と応えました。
「Gさん、ご存知ですよね?Gさんがとにかくあなたに会って出来るだけ続けてやってもらえって・・・」と彼女。

「Gさんは施療を受けたことはなかったのじゃないかな?」
施療を受けたことのない人からの紹介なんて、私は不思議な気がしたのですが、彼女も真剣なようなのでとりあえず会うことにしたのでした。

1回目の施術では、ツボ自体閉じていて響きもなく、彼女も殆ど感じていないようでした。しかし、腹部の深いところには何かを感じたようでした。

「これはちょっとミステリーだな・・・」
ただ、彼女はどこかで無理をして感じないようにしている、という気がしました。
「ならばもっと続けたほうがいい」
「そうですね、云われたように2日後にまたやってみましょう。明日は具合をみてください」と私は メンゲン※ の説明などをして2日後の約束をしました。

さて2回目。
「どうでした?何か動きはありましたか?」
と聴くと、
「いえ」
と、全く感情のこもっていない返事でした。
「確かに気分はいいのですが、それは休暇中だからで、特にこの間の施療で何かが良くなった、ということはないです」
素っ気ない言葉でした。
しかし、この時は施術が進むにつれてツボの具合が違いました。開いてきたのです。

「どうですか?深いところへ行きませんか?」と私。
「・・・・」
私は彼女に「心よ、開け!」と強い祈りをこめて更に深く圧しました。
「どうですか?痛過ぎないですか?」
「・・・え~まあ・・・だけど響き、という感じはありません」と頼りない反応。
ただ、私には彼女の中で何か感じたくないものがあってどこかで反発している、という気がしていました。

反応に変化が

この日、施療を終える頃に彼女は激しい寒気を訴え、それはどんなにブランケットにくるまっても、暖房が最高の状態であっても変わりませんでした。
それなのに、施術後には無感動に
「また二日後にお願いしたいんですけど・・・」と彼女。

かなり大きく体調に変化が出てきたにもかかわらず、それを感じているのか、相変わらず、彼女の心の動きに変化がみられませんでした。
私はちょっと返答に迷いました。
「・・・そうですね・・・ 正直あなたご自身が施療に何のメリットもないと感じていられるのでしたら、時間とお金の無駄ですので中止しても良いのではないかと思っています・・・ というか・・・ 実は私にはあなたが何のために来られるのかが分からないのです・・・」
思い切って伝えてみました。すると、
「いえ、そんなことはないです! 私は続けたいのです。Gさんは私の良い友達で、私はGさんを100%信じているのです! ですから2日後にお願いしたいのです!」
と、初めて強く訴えてきたのでした。

「随分激しいなあ、不思議な人だけどこれも何か意味があるのかも・・・」
彼女の急な変化に戸惑いながらも、とにかく2日後にまた様子を見ることにしました。

3回目の施療を始める際、この2日間何か変化はあったかを聞いたところ、
首の後ろ側に何か感じる、とのことでした。
「これは進展があったようだ!」と、私は基本手技を心をこめて行なっていきました。彼女は、ときどきため息のような深い呼吸をしていました。
私は、リラックスしてきたようだなと感じました。
「良い感じだ」

そして、ツボ施術に入った時です。
観ると腹部に何かを感じました。そのため腹診から入りました。
「・・・動いていませんか?」と私。
「ええ。熱ですかね、熱い感じが頭のほうへと来ます!」と彼女。
「動き出しましたね!」

私は全霊をこめて足、背部、頸部、と施術しました。
すると響きが感じられたようでした。
まず頭部へ、それから肩へ、そして前腕と足へ。
しかしまだ深いところで何かがうずいている、という気がしました。

私はさらにその深みへ問いかけるつもりで施術を続けました。
すると、どうも心を囲っている鎧のようなイメージが現れてきたのでした。
と同時に、ようやく浸透し始めた、という感じもしました。

緩んできた「鎧」

そして4回目の時です。
彼女の「鎧」はかなり緩んできていました。
そして、ツボを施療していくと、
「この人はケアされた、という実感をこれまでしたことがなかったのではないかな? そして完全に受け入れられた、と感じたことも・・・」

そんな思いが突然に私に現れてきて、この人の悲しみが理解できたように思えました。そうすると、今度は頭部のツボが起き上がってきました。
「深いところが痛いです」と彼女。
このくらいかな?いや、もう少し・・・私はお念仏を心で唱えました。
「頭に響いていますね?」
「ええ、胸のほうも、悲しみを感じます・・・」と彼女。

そして、ツボの底の底、というところで私はゆっくりと手を離していきました。
すると、彼女は「うう・・・」と呻きだしました。
そして、静かに静かにゆっくりと泣きはじめたのでした。

それは、徐々に周りも気にせずしゃくりあげるような嗚咽となっていき、やがて、あふれてくる悲しみに浸っていったように感じられました。
その時、私は隣でお念仏を心で唱え、どうかこの人のこの傷を癒して下さいと阿弥陀様に祈っていました。

彼女は、この時やっと恐れることなく悲しみを感じ、体験したのでした。
さらに、悲しみを抑えずに体験しても良いのだ、と思えたのでした。
私は心をさらに深め、彼女の最善を祈りつつ施術を終えたのでした。

さて、施術を終え振り返ってみると、私にとって彼女はこれまでで最も難しい患者さんだったのではと思います。
正直何をして良いのか解りませんでした。さらに何度諦めかけたかも解りませんでした。それでも、私も彼女もあきらめませんでした。

結果、瞬間瞬間の祈りに導かれて心の“鎧”を解くことができたのです。そして、そのことは、彼女にとっても私にとっても画期的な出来事だったようです。
特に私は彼女から計り知れないものを学んだと思っています。そして、そんな彼女には感謝の気持ちでいっぱいです。

※メンゲン
治癒に至るプロセスで、一見病気と思われるような様々な症状があらわれて
くることです。

ローレンス・レフコート (モントリオール・カナダ)