触れずに治ることもある

執筆者 | 10月 7, 2016

彼女は、タオ指圧によって人生が変わってしまったのだ。
というと、そりゃあ大げさだろう、という向きも無きにしも非ず、と思うが、彼女の場合はそうとしか思えない。
何しろ、施療をさせていただいた本人もこういうこともあるのか、と驚いたのだから・・・。

初めは腰の痛みから

腰に痛みがあった。
仕事の関係で10時間も同じ椅子に座っているからだ、とジョウは言った。
これが1回の施療で取れてしまった。
2度目にあったとき、彼女はそう言って喜び、そして、仕事関係の軋轢やら、家族関係の悩みやら、恋人がプロの泥棒で刑務所に入っていてもうすぐ出てくるが、もう終わりにしたい、などなど思い切り話してくれた。
そのときは施療をして終わった後に「私は今、すごく泣きたい気持ちだが泣かない」といって無理に笑っていた。
彼女の感性はスーパー・センシティブというか衝撃を受けやすい・・
要するにそれが原因で年中傷ついている。
そのくせアイリッシュだからだろうか、やたらと頑固なところもある。
「泣かない」といったら泣かないし、酒を飲まないと決めたら飲まない。
これは家族がそろってアル中で、酒乱も何人かいて、それを見て恐れているからだ。飲めばいくらでもいけると言っていた。
とにかく施療はとりあえず終わって4週間たった。

首が回らなくなった彼女

「Hi,This is Jo….」と、電話があった。
“腰は全然平気だが、首が回らない”という。行ってみると話し始めた。
「恋人は出所してきて、もう会わないと、言い渡した。
上司の専横がひどく、人がどんどんやめて、自分もやめたい。
新しい仕事のアイデアはあって、いけそうだが、私はいつも、判断を間違えてうまくいったことがないから、いまいち踏み切れない。
そんなことを考えていたら首が回らなくなった。
しゃらくさいから仕事を休んでやった。」と言ってさびしく笑った。
さびしいのだ。
彼女の一言一言にさびしさがまつわり、その重さで方向性を失っている。
「私はいつも、間違っている。なぜあんな男を選んだのか。
あんな仕事は最初からいやだった。」と言い切る彼女。
私は受け止めようと必死だった。どうしてよいかわからない。“施療を始めるから横になりましょう”とも言える状態ではない。
ただ教わったとおり、聞き、想像し、共感しようとし、彼女の話すことを繰り返した。

最後は一指も触れずに治ってしまった

「ジョウ、あなたはいつも間違っているんだね?」と私。
「そうだ、と思うけど・・・」 ほんの1分前には”間違っている”と言い切っていた彼女の言葉が変化していた。
このときに私の中で何かがはじけた。
「あなたは間違った判断を下すのではなくて、決めたことが間違った方向に行ってしまうのが、なぜだかわからないんじゃないの?」という問いかけが口をついて出てきた。
彼女は私を直視した。
「例えば、無意識のうちに”彼氏がいたらなあ”と思う。そして”誰かにあったときにいつも間違えるからなあ”とも思っていたらどうなる?」と私。
「・・・・・」
「もしあなたがいつも間違っているとしたら、そう思っているのもきっと間違いだよね。」さらに私。
彼女は笑った。笑うとグレン・グレイスに似ている。
そんなやりとりがしばらくあり、「施療を受けようと僕に電話したことも、間違いだと思うかい?」と問いかけたとき、彼女は首を横に振っていた。
「ジョウ、首はどうした?」
「!! Oh,my god! Oh,my goodness!! Can’t believe! Ha,ha!」
この日は、まったく一指も触れずに治ってしまった。
それから、しばらくたって、ジョウからEメールが来た。
“仕事をやめた。
彼とは会っていない。うわさによるとまた逮捕されたようだ。
この間、10年ぶりにある友人とあって、ビールをしこたま飲んじゃった。
それから飲んでないが、気にならないから、また飲めそう。
今の仕事は時間が自由だから、今度ランチをご馳走したいから、
よかったら連絡して。”と

豊田雄山