ある精神科医の腰痛

膠着した体が快方へ

私の友人で、ムエイ・タイ、タイ式ボクシングの選手兼コーチがいます。
彼の生徒で、かかりつけの医者でもある40代の女性(専門は精神科)から、治療依頼がありました。
話によると、彼女は数年来腰痛を抱えていました。その痛みを、薬で何とか騙し騙ししながら、ボクシングのトレーニングを続けてきたのだそうです。
ところが、ある日を境に痛みがさらにひどくなり、とうとう歩行すら困難になりました。
さらには薬を飲んでも効果が無くなってしまったのだそうです。
レントゲンでは異常はみられませんでした。彼女は、さらに強い薬を服用するのは避けたいと、友人から勧められフィジオセラピー(理学療法)を始めたそうです。ですが、寝返りさえもうてなくなる程さらに悪化してしまった、ということでした。

1度目の治療では、彼女は体に痛みを強く感じているようでした。またフィジオの記憶もあったためか、ひどく膠着し、汗だくの状態になってしまいました。
ただ、タオ指圧については、ウェブサイトで多少学習して下さったらしく、受け入れる姿勢を感じることができました。治療者として、これにはとても助かりました。
受療後、「腰に100%あった痛みが、なんか身体中に分散したみたいで、随分楽な気がします」とおっしゃっていました。ところが、痛みは2日後には元へ戻ってしまったとのことでした。

2度目の治療で、ツボの響きが多少身体の末端へ向けて動き出しました。
しかし殆どのツボは体幹へと響きます。下腹部への腹診のとき、強くはないが、胸の奥のほうへ重い感じの響きがありました。

長年秘めていた思いが…

3度目の治療までに2週間弱経ったと記憶しています。
その3度目治療で、腹部以外のツボでも胸の奥への響きがありました。
とてもほっとされた感じでした。
そして、彼女はこの時に、息子さんについての何気ない話をされました。
そこから、話は長年の秘めていた思いを打ち明けるに至ったのです。

「実は、この間から結構落ち込んでいてね。というのも、私は精神科の臨床医になって10数年経つのだけれど・・。本当にどれだけ人の助けになっているかはわからない・・・」
「人々はみんな問題を抱えている。それについては専門家の私たちですら実際のところ、ただ観てるだけしかできないという気がして、、。それを思うともう、たまらなくなります・・・」
「息子たちは本当に素晴らしく、明るく問題なくやっているのだけれど、、。彼らが今の大人の世界へ入っていくと思うと辛くて・・・」
「・・・こんなことをあなたに言うつもりはなかったのだけれど。まあ、吐き出すのは良いことだから、いいですよね・・・」
「けれど、どのツボを押されると告白したくなるのから・・・?」と、泣き笑いでした。

ところが、4度目の治療の時。
「・・・キャンセルしようかと思ったんです・・・」
「え?本当?なぜですか?」と私。
「おとといから背中の真ん中辺りが苦しくて、身体をひねると痛みがあって・・・」
(しまった、やりすぎたか!?と内心焦りました)
「・・・けれど今朝気がついたら消えていて、腰も大分良い、キャンセルしなくてよかったわ」
「あ、なるほど」ホッとする私。
「初めてのとき、メンゲン反応について説明しませんでしたっけ?」
と言うと、
「そうなの、それを痛みが消えてるのに気がついたときに、そういえばって思い出したんです。げんきんなものよねえ、人間は・・・」と、大笑いされました。

治療は、この4度目で本人の希望でとりあえず終了しました。
友人のムエイ・タイ・コーチからの話では、ジムに戻って来られて元気にエクササイズを続けておられるそうです。

豊田雄山 (モントリオール・カナダ)

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