「ものぐさ精神分析」再読

執筆者 | 3月 11, 2016

初めて読んだとき、「すべては幻想である」という「唯幻論」には度肝を抜かしました。

そしてその説得力に、魅了されました。

私はそれまで、「すべては幻想だ」などと聞いたことはなかった。

それに、人間、集団、国家、歴史、宗教などの概念は、言葉でこそ知っては

いるものの、自分にとっては何のリアリティもないものでした。あえて考える必要を

感じることもなかったのです。

その自分にとって、まったく現実味がないただの概念(言葉)たちが、精神分析的

アプローチによって読み解かれると、とたんに自分のことのように「わかる!」気が

しました。

このとき、「学問って面白い!」と思いました。

 

著者の母親との葛藤、中学生の時に苦しんだ強迫神経症、フロイトの本との

出会いなどの個人的エピソードも面白かった。

岸田秀氏の人生は、その大半の部分を「母親」の影響から自由になるために

費やされたのではないか? その葛藤の苦しみの深さが、氏を突き動かして

きたのではないか? だからこそ、数々のすばらしい著作を著されたのでは

ないか? と思いました。(同著者の『心はなぜ苦しむのか』朝日文庫 は、

自らの母親との葛藤を追求している名著です)

 

「人生に意味はあるか?」というアンケートに対する著者の回答が、

近書(2014年)に掲載されています。

「人生に意味はない」。「それは、猫生、鯨生、豚生と同じである。」そう著者は

言い切っています。最後には、「なるべく愚行を少なくして、何とか生きるしか

ない」と締めくくっています。

人間の心の深層を見つめ続けてきた著者のこの言葉に私は、複雑な思いを

抱きました。 このとき、さまざまな言葉にならない気持が、わたしに押し寄せて

きました。

“猫や鯨や豚より人間の生のほう尊い”と、私は思っていたのだろうか?

意味はないというのは本当に著者の本心なのだろうか?

私は人生に意味があると思っているが、その根拠はなんだろうか?

 

「ものぐさ精神分析」の初版は、1977年(雑誌掲載jは1975年)だそうです。