タオ療法では、施療のときに、ツボの響きを患者さんに確認しながら施術をおこないます。
しびれるような、ずーんとうずくような、またはじーんとあたたかくなるような、なんとも不思議な感覚です。
慣れないうちは、この響きを痛みと感じることもあります。
Aさん(40代・女性)は、初めて施療にいらっしゃったとき、左肩に激痛があって、ほとんど動かせないということが主訴でした。
また、左肩の痛みだけでなく、ほとんど寝たきりの状態のご両親の介護で一日が終わるような生活で、その疲れとストレスで不眠症が長く続いているとのことでした。
触れてみると、左肩周辺だけでなく、全身が固くこわばっている状態でした。
ツボにほんの軽く触れただけでも、かなり強い響きがあって、とても痛がりました。
施療を重ねるごとに左肩の状態は、少しずつ良くなっていきましたが、響きに対しては、当初からずっと「痛いです」「嫌な感じです」という返事が続いていました。
響きに対してネガティブなイメージがある場合、施療の効果がはっきりしないことも多いので、私はどうしたものかと考えてしまいました。
ある日の施療のとき、ふと感じることがあって、「ひょっとしたら、わざと、痛いですとか、嫌ですって、言っているんですか?」と、聞いてみました。
すると、Aさんは、「はい」と答えました。
「私、こんなふうに、痛いですとか、嫌ですって、今まで言ったことがないんです。」と。
「わがままを言いたいんでしょうか?」と聞くと、少し微笑みながら、「はい、きっとそうなんです。」と答えました。
そう答えたときの感じが、ようやく自分の気持ちを伝えられた、というようなほっとした様子で、なんとも明るい言い方だったので、私も思わず笑いながら、「そうだったんですね、わかりました。では、好きなだけ言いたいだけわがままを言ってくださいね。」と言いました。
Aさんは、うれしそうに「はい」と返事をしました。両親の介護で、昼夜問わず気が休まることがない日々の中で、Aさんは、自分では気がつかないうちに、自分自身の感情や感覚をないものとしてきたということでした。
そうでもしなければ、自分自身が耐えられなかったと。
「痛いときは、痛いって言っていいんですよね?」 Aさんに聞かれました。
「もちろん、痛いときは痛いって言っていいんですよ。そして、この痛みを感じることと、それを言葉にすることが、大切で必要なことかも知れませんね。」と答えました。
その次の施療のとき、響きを確認するために「どうですか?」と聞くと、Aさんは少し照れたような様子で、「痛いです。腕に響いています」
「嫌な感じです。頭に響いています」と答えました。
半年くらいの施療のうちに、左肩の痛みはほとんどなくなっていきました。
私たちはときどき、「まるで自分が自分でないような・・・」、というような言い方をします。
Aさんは、無意識に自分が自分でないような状況をつくることで、必死に自分でいようとしていたのかも知れません。
それが痛みやこわばりとなってあらわれたのだと思います。
Aさんのツボの響きの痛みは、まさに自分が自分であろうとするための、
いのちの叫びなのだと感じます。
後藤 光妙